大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和36年(ヨ)1310号 判決 1963年5月06日

申請人 林毅男 外一名

被申請人 株式会社明治屋 外一名

主文

本件申請をいずれも却下する。

訴訟費用は申請人両名の負担とする。

事実

申請代理人は「申請人林毅男が被申請人株式会社明治屋に対して、申請人酒井進が被申請人関西明治屋商事株式会社に対していずれも雇傭契約上の地位を有することを仮りに定める」との裁判を求め、申請の理由として次のとおり陳述した。

申請人林毅男は昭和二四年七月一日被申請人株式会社明治屋に入社したものであり、又申請人酒井進は昭和二四年八月一日被申請人株式会社明治屋に入社しその後被申請人関西明治屋商事株式会社の従業員となつたものであるが、昭和三六年七月三一日いずれも懲戒解雇の言渡を受けた。

しかしながら右懲戒解雇の意思表示は申請人等の正当な労働組合活動を理由としてなされたものであつて不当労働行為として無効である。

すなわち、被申請人株式会社明治屋は和洋食料品等の製造販売輸出入等の業務を目的とする株式会社であり、被申請人関西明治屋商事株式会社は和洋食料品等の売買等の業務を目的とする被申請人株式会社明治屋の子会社であり、右両会社及び他の明治屋傍系会社の従業員約一五〇〇名をもつて全明治屋労働組合(以下単に組合という)を組織しているところ、被申請会社両社(以下両社を併称するときはすべて単に被申請会社という)は昭和三六年四月一日より名古屋支店における清掃エレベーター部門を申請外栄和建物管理株式会社に請負わせることに決定したので、組合名古屋支部では同年三月二四日支部臨時大会を開き、右請負はこれを是非実施しなければならない必要性合理性がないのみならず、これによつて組合員の不利益な配置転換及びこれに伴う臨時雇の一方的解雇を招来するものであることを理由に請負化に反対する方針を可決した。右支部の方針は同月二六日開かれた組合の第一〇回臨時中央大会においても支持され、闘争の具体化は組合名古屋支部に一任された。そこで同支部は同年三月二五日被申請会社名古屋支店長に対して団体交渉を申し入れ、同日第一回団体交渉が行われたが、その席上被申請会社はエレベーター係の山田今子丹羽幸子を喫茶係に、清掃係の加藤かず子を発送係(品揃)に、同じく周防えいを庶務係(食堂賄)に配置転換すると共に食堂賄の臨時雇二名を解雇する方針であることを示し、同月三〇日の第二回団体交渉において右配置転換のうち山田今子を発送係(検品)へ、加藤かず子を喫茶係へ変更する旨申し出、両者間に引き続き交渉がなされることになつていた。しかるに被申請会社は同年四月七日行われた第三回団体交渉において突如として従来の態度を変え、請負化問題は団体交渉事項でないと主張して右問題に関する団体交渉を拒否するに至り、同月一一日には団体交渉を一方的に打ち切つた。しかしながら右請負制度の実施は会社の機構改廃であると同時に必然的に労働者の配置転換を伴うものであるから団体交渉の対象となり得るものであることは組合と被申請会社間の労働協約によつて明らかであつて、右団体交渉拒否は正当な理由がないから不当労働行為というべきである。組合は右の如き被申請会社の不当な団体交渉拒否の態度に抗議し、人事配置について組合と団体交渉を行うことを求めて争議行為をなすに至つたのであつて、右争議行為は正当なものである。

然るに被申請会社は右請負制度の実施及びこれに基く職場変更が団体交渉事項でないから、右について団体交渉を拒否し得ると主張し、右団体交渉拒否に抗議してなした組合の争議行為を違法なものと断じてその責任者である組合名古屋支部執行委員長申請人林毅男及び同副委員長申請人酒井進を懲戒解雇したものであつて、右解雇は申請人等の労働組合活動を理由になされた不当労働行為というべきである。

仮りに不当労働行為でないとしても、懲戒解雇すべき理由がないから右解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効である。

申請人等はそれぞれ被申請会社に対して解雇無効確認の本案訴訟を提起する考えであるが、右判決の確定を待つていては労働者として回復し難い苦痛を受けるので本申請に及ぶものである。

被申請人等主張の解雇事由に対して次のとおり反駁した。

(一)について、当日組合員が執つた行為は正当なピケッティングであり、しかも事態は会社と組合との交渉により円満に収拾されている。すなわち、栄和建物管理株式会社の清掃員一〇名(男女各五名)が請負作業に強行就労したので、組合員はピケを張つて右清掃員に対し紛争解決迄就労を見合わせるよう説得すると共に右清掃員を指揮した被申請会社船橋経理課長、奈良総務課長、伊藤小売課長等に対し団体交渉を開くよう要求し、その結果約一時間後に組合の要求を考慮するため一時休戦となり、午後四時一〇分組合と右課長等が話し合つて清掃作業を午後五時迄行い、午後七時より団体交渉をなすことで事態は円満解決した。

(二)について、被申請会社が四月一〇日朝「信念をもつて業務を遂行しよう」と題し、虚構の事実を記載して正当な労働組合活動を誹謗したビラ及び「勤務時間中課長の許可を受けず無断で自己の職場を離れたものは組合活動を行つたものと認めて賃金カットする」旨の文書を各組合員に配布したので、組合は右の如き一方的独善的文書について抗議すべく組合員が被申請会社会議室に赴き奈良及び船橋両課長に右抗議内容を説明したところ、両課長等が、自ら組合員を会議室へ招き入れたものであつて、組合員において無断乱入したのではなく、支店長が退去要求した事実もない。

(三)について、同日被申請会社が更に「組合はただ観念的に合理化に反対しているのだ」との趣旨の立看板を店頭及び店内に立てたので、再度組合員が三階会議室に赴き在室した奈良課長に対して抗議を始めたところ、同課長自ら組合員を会議室に導き話合いの結果、同課長は立看板を立てたことの非を認め、右立看板を裏返しすることにしたので抗議を中止したもので、その間被申請人等主張の如き罵詈雑言をし、同課長の行動を拘束したことはない。

(四)について、四月一二日被申請会社金沢名古屋支店長、奈良、船橋、池田の三課長が配置転換予定の組合員丹羽幸子及び山田今子に対し会議室において午前一〇時頃より約一時間にわたり配置転換に応じるよう執拗に強要し、その辛さに耐えかねた丹羽幸子は遂に泣き出す程であつたが、これを知つた組合では争議中であるにも拘らず組合を無視して直接本人に苛酷な程圧力を加えたことを重視し、組合員が一階発送部貨物用エレベーター前にいた奈良総務課長に対して右につき抗議すると共に配置転換について直ちに団体交渉を再開するよう要求したものであつて、被申請人主張の如き吊し上げの事実はない。

(五)及び(六)について、組合員に被申請人等主張の如き行き過ぎた行為はない。組合は四月一二日被申請会社に対し請負問題について前日一方的に打ち切られた団体交渉の再開を申し入れたところ、被申請会社が「請負問題は団体事項ではない。今後組合に制約されることなく請負問題を強行する」旨の最終的回答をなしたので、組合は翌一三日拡大中央執行委員会を開催して厳重な抗議をするとの基本的態度を決定し、同月一四日行われたエレベーター及び清掃係の強行就労に際してピケによる平和的説得及び抗議をなしたものである。

(七)について、四月一二日より被申請会社名古屋支店長以下幹部職員は出社せず所在をくらましてしまい、奈良総務課長等が時々出社する状態であつたので、組合としては出社した幹部職員を発見する都度抗議し且つ団体交渉再開の申入れをする外はなかつたところ、偶々四月一六日夜奈良総務課長が三階事務室に在室するのを発見したので組合員六名が同課長に団体交渉再開の申入れをしたところ、同課長はこれに応じなかつたため組合員はそのまま泊り込みをしたものであつて、同課長より退去を命じられたことはない。

(八)について、組合は被申請会社における営業の特殊性を考慮して顧客からの電話に応答したものである。すなわち、組合は四月一七日朝から半日ストを実施したのであるが、被申請会社では商品の卸売が主要部門となつており、客からの註文は殆んど電話によつてなされるので、ストライキによつて業務が停滞しているに拘らず、客がこれを知らずに電話註文をしてくるのを放置しておけば電話に出る者がなかつたり、客の期待に反し配達がおくれたり、通常以外の者が応待して註文を誤つて受けたりなどして客に無用の混乱、誤解、不快感を与えるおそれが大きい。そこで組合はこれに適切に対処するため電話のうち平常組合員が応待しているものについて特に顧客の応待に習熟した組合員を選択配置し、客から電話があると始めに組合のストライキの実状を説明してその了解を求め、終りに「受註及び配達は正午より開始するから午後再び電話して欲しい。もし急ぐなら来店して欲しい」旨懇切に話をしていたのであつて決して註文を断り営業を妨害したものではない。

(九)及び(一〇)について、被申請人等主張の如く課長を追い出し、又はその入室を阻止したことはない。組合は同月一七日早期に紛争を解決するために団交体渉の再開を更に強く要求することが重要であると判断し、金沢支店長、奈良及び船橋両課長の所在を尋ねたが判明しなかつたので、同日夜たまたま名古屋支店に残留していた池田、加藤、次いで柴田、古川、横江の各課長を通じて事件の収拾を図るのが最上と考え、右課長等に対し右三名の行方を探して貰いたい旨を要請し、同課長等はこれを了解して探しに出かけたものである。

(一一)及び(一二)について、組合は四月一八日電話交換手を含む四七名の指名ストライキを行い、それに伴つて(八)の場合と同じく被申請会社の立場を充分考慮して電話に組合員を配置して客からの電話に応答した。同月一九日一時間の全面時限ストに引き続いて五〇名の指名ストライキを行つたが、これについても右と同様である。その際課長等の入室を阻止した事実はない。

(一四)について、被申請人等主張の如く奈良課長を吊し上げたことはない。同課長は四月二八日ピンポン室にいた組合名古屋支部書記長岡内英雄に業務上のことで苦情を言いに来たが、その際居合わせた組合員と本件争議の可否について論争したのである。

(一三)、(一五)乃至(一八)について、組合は被申請会社が団体交渉を再開しないことに対して抗議のため店内デモを行つたものであつて、右デモは何れも秩序正しく整然と行われ、その時期も顧客の一番少い正午頃を選択しており、正当な争議行為である。組合支部は本件争議以外においても店内デモ、労働歌の合唱等を行つた経験があり、労使間において店内デモは慣行となつていた。(疎明省略)

被申請代理人は「本件申請を却下する。訴訟費用は申請人の負担とする」との裁判を求め、次のとおり陳述した。

申請人主張の事実のうち、申請人等がそれぞれその主張日時被申請会社に入社したこと、被申請会社が昭和三六年七月三一日それぞれ申請人等に対し懲戒解雇の意思表示をなしたこと、申請人林毅男が組合名古屋支部執行委員長、申請人酒井進が同副委員長であること、被申請会社が昭和三六年四月一日以降申請人主張の如く請負制度の実施及びこれに伴う従業員の職場変更をなしたことを認めるが、本件解雇が申請人等の労働組合活動を理由としてなされたことは否認する。

被申請人株式会社明治屋は和洋食品等の製造販売輸出入等を営むものであり、被申請人関西明治屋商事株式会社は主として関西における酒類の卸売を営むものであるが、被申請人関西明治屋商事株式会社は特定地区及び大都市における酒類の卸売及び小売の兼業が認められない関係上被申請人株式会社明治屋の子会社として設立されたものであり、実質的には被申請人株式会社明治屋の一営業部門を担当している商事会社であつて、その役員及び幹部社員も被申請人株式会社明治屋の役員及び幹部社員がこれを兼務しており、両会社の就業規則及び全明治屋労働組合との間の労働協約も同一内容のものである。

被申請会社が申請人等を懲戒解雇したのは次の理由による。

被申請会社名古屋支店はいずれも名古屋市中区栄町三丁目五番地所在鉄骨鉄筋コンクリート六階建ビルディング(明治屋ビル)に営業所を置いているが、企業運営合理化のため昭和三六年四月一日以降右明治屋ビルにおけるエレベーターー一基(客用)の運行管理及び清掃作業を専門業者である申請外栄和建物管理株式会社に請負わせる旨の契約を締結し、これに伴つて同年四月一〇日付でエレベーター運行管理係丹羽幸子及び清掃作業係加藤かず子を小売課喫茶係に、エレベーター運行管理係山田今子を倉庫課発送係に(以上いずれも組合員)、清掃作業係周防えい子を総務課庶務係(食堂賄係)に各職場変更し、臨時雇であつた清掃作業係尾畑あや及び食堂賄係服部芳江を栄和建物管理株式会社に就職斡旋した。

ところで被申請会社と全明治屋労働組合との間に締結された組合活動に関する労働協約第五条に「会社は左の各号の一に該当するときは組合に通知する。(2)号、会社の機構、職制等を新設、改廃したとき」、人事に関する労働協約第一条に「会社は組合員の人事については責任をもつて慎重公正に取扱う。組合は会社の行つた組合員の人事が公正を欠くと認めたときは苦情処理委員会に申出ることができる」、同第四条に「会社は業務上の必要ある場合組合員の転勤出向または職場の変更を行う。但し組合役員の転勤出向を行う場合及び昇格によつて非組合員となる場合は中央役員については組合本部へ、支部役員については組合支部へ可及的速かに夫々事前に内示する」という規定があり、右人事に関する労働協約第一条附属覚書に「苦情処理委員会の性格は人事条項に関しては会社の諮問機関とし、その都度会社、組合双方の同数の委員を以て構成して運営する。尚苦情処理委員会に関する規定は会社組合協議の上決定する」という取り決めがある。これによれば、機構の改廃及び組合員の職場変更について被申請会社等はその責任において自由にこれを行い得るのであつて、事前に組合と協議したり、組合の承認を得る必要はなく、組合としては組合員の人事が公正を欠くと認めたとき苦情処理委員会に申し出て会社の再考を求める権利を留保したほかは会社が自由にこれを処理するのを予め承諾したことが明らかである。

被申請会社が明治屋ビルのエレベーター運行管理及び清掃作業を栄和建物管理株式会社に請負わせることは会社の機構の改廃に当るから組合活動に関する労働協約第五条によつて組合に通知すれば足りるし、又右機構改廃に伴い組合員である加藤かず子、山田今子及び丹羽幸子の職場を変更することは右三名がいずれも組合役員ではないので人事に関する労働協約第一条第四条によつて組合に内示することなく実施し得るものであつて、被申請会社としてはいずれも右実施について事前に組合と協議する必要はない。

そこで被申請会社は昭和三六年三月一七日組合に対して同年四月一日以降右請負制度を実施する旨通知したところ、組合が請負化に反対して団体交渉の開催を要求したので、被申請会社は前記労働協約上右について団体交渉の必要がない旨を通知したが、円満処理のため話合いに応じるとの態度をとり、組合の申入れによつて請負制度及び職場変更の実施を同年四月一〇日迄延期してその間数回にわたり組合と話し合つた。しかしながら組合は何等合理的理由なく下請制度絶対反対を主張するのみであつたので、被申請会社は同年四月一〇日右職場変更を発令し、且つ同日より栄和建物管理株式会社をして右請負作業を実施させるに至つた。これに対し組合は請負制度実施反対のため極めて悪質違法な争議行為を敢行したのである。その詳細は次のとおりである。

(一)  (定例大掃除妨害)

被申請会社が右請負制度実施とは別に昭和三六年四月九日(日曜日)栄和建物管理株式会社に依頼して明治屋ビルの春季定例大掃除を行わせようとしたところ、同日午後一時より午後四時頃迄の間、申請人等を始め多数の組合員は三階事務室に侵入して、栄和建物管理株式会社の係員が椅子を机の上にあげるとこれを下に降ろし、ごみを掃き集めるとこれを蹴散らし、電気掃除機のコンセントを取りはずす等実力をもつて清掃業務を妨害し、遂に総務課の一隅を除き他の大部分の清掃をなすことを不能ならしめた。

(二)  (会議室乱入)

同年四月一〇日被申請会社名古屋支店長金沢隆平、経理課長船橋清造、総務課長奈良三郎が明治屋ビル三階会議室において会議中、申請人等を始め一二、三名の組合員は部外者数名と共に午前一〇時頃突如無断で扉を開けて会議室に侵入し、金沢支店長等の退去要求にも応ぜず、各自勝手気儘な発言をして会議の進行を不可能にした。

(三)  (課長吊し上げ)

同日午後二時四五分頃より午後四時四五分頃迄の間、金沢支店長の不在中、申請人等を始め十数名の組合員は部外者数名と共に明治屋ビル三階会議室に侵入し、自席で執務中の奈良総務課長を呼び出し同人を取り囲んで「お前だら幹だ。お前がよく委員長ができたものだ。総務課長は脳味噌が半分位しかないんだろう。或は小指の先程しかないんじやないか」等罵詈雑言を吐き、約二時間にわたつて同人を吊し上げてその行動を拘束すると共にその職務執行を妨害した。

(四)  (課長吊し上げ)

同年四月一二日午前一一時頃より午後〇時四〇分頃迄明治屋ビル一階発送部荷物エレベーターの前で申請人等を始め十数名の組合員は部外者と共に奈良総務課長を取り囲んで「お前はテープか裏切者。お前のような者がいるから名古屋問題も却つて解決しない。卑怯者」等罵詈雑言を吐き、約二時間にわたつて同人を吊し上げた。

(五)  (清掃及びエレベーター運行妨害)

同年四月一四日栄和建物管理株式会社が前記請負契約に基き明治屋ビルの清掃及びエレベーター(客用)の運行を行うに際し、申請人等を始め多数の組合員は被申請会社が特に事前に警告したに拘らず、これを無視して部外者数名と共に(い)片足をエレベーターにかけてその運行を阻止し、(ろ)多数の者がエレベーターの中に乱入して運行者に脅迫を加え、(は)多数の者がエレベーター運行の交替予定者を取り囲んで、その交替を不可能にし、(に)エレベーターの出入口の前に多数の者が押し並んでその使用を不可能にし、(ほ)清掃係が清掃用具を取りに行こうとしたり、清掃用具を持つて配置につこうとすると多数の者がその通路に立ち塞つてこれを妨害し、甚しきに至つては清掃係を両手で押え付けたり清掃用具を奪い取る等の暴挙に及び、(へ)清掃係が清掃を始めようとすると、多数の者がその身辺に群つて清掃を不可能にし、これを制止しようとした奈良総務課長を突き飛ばす等の不法の実力行使によつて前記業務を妨害したが、殊に申請人林毅男は右(い)乃至(に)の行為を、申請人酒井進は右(ほ)(へ)の行為を率先実行した。

(六)  (課長吊し上げ)

同年四月一四日申請人等を始め三十数名の組合員は明治屋ビル一階荷物エレベーター前で船橋経理課長を取り囲んで「馬鹿野郎」等の暴言を吐き、同人が「業務妨害であるから退去するように」と数回警告してもこれに従わず、午前九時三〇分頃より午前一一時四五分頃迄の長時間にわたつて同人を吊し上げ同人をして遂に「警察を呼んでくれ」と絶叫させる程の圧力を加えると共にその間奈良総務課長を明治屋ビル一階階段の五、六段目より突き飛ばして前同様同人を包囲し、「馬鹿野郎」等の暴言を吐きつつ同人を吊し上げた。

(七)  (無断泊り込み)

同年四月一六日午後一一時頃申請人等を始め一〇数名の組合員が明治屋ビル三階事務室に侵入し、奈良総務課長外非組合員に対して「団交を開け」と詰め寄り、二〇分程で引揚げたが、その際申請人等を始め一部の者は被申請会社の退去命令を聞き入れず、計画的にむしろ、毛布及び夜食を持ち込んで本来宿泊の場所でない三階書庫前通路に泊り込んだ。

(八)  (事務室不法占拠、電話管理)

被申請会社がストライキ中は事務室に無断入室を禁じる旨再三組合に警告したに拘らず、組合は右警告を無視し、同年四月一七日午前九時五分頃より正午頃迄の間約二〇名の組合員が三階事務室に侵入してこれを不法に占拠し、被申請会社が「営業妨害である」と抗議したのにこれを無視し、被申請会社の電話を管理して得意先等からの電話註文その他の連絡を被申請会社の意思に反して勝手に断り、もつて積極的に営業妨害を行つた。

(九)  (課長追い出し)

被申請会社が組合に対して就業時間外に被申請会社の施設に立入ることを禁じる旨再三通知していたに拘らず、同年四月一七日午後八時より午後一一時半頃迄の間、申請人等数十名の組合員は部外者と共に明治屋ビル内に侵入し、当日宿直の柴田仕入課長及び古川名古屋駅前出張所長並びに右ビル内にいた加藤第一卸課長及び池田倉庫課長に対し「支店長をさがして来い」と強要し、特に右宿直の両名が机、椅子等にしがみついて頑強に抵抗したのに対し無理に押したり両腕を抱えて立たせたり腕を引張つたりして暴力をもつてこれをビル外に追い出した。

(一〇)  (課長入室阻止)

同年四月一七日夜から無断で明治屋ビル内に宿泊した申請人酒井進等五十数名の組合員は翌一八日始業時に前夜宿直の横江営業課長を除いたその他の全課長が勤務につくため三階に入ろうとしたのを入口でスクラムを組んで入室を阻止し同日の執務を不可能にした。

(一一)  (事務室不法占拠、電話管理)

同年四月一八日申請人等を始め当日指名ストライキに参加した一部の組合員は執務中の事務室を不法に占拠し、申請人等指導の下に得意先からの電話註文その他の連絡を被申請会社の意思に反して断り、積極的に営業を妨害した。

(一二)  (事務室不法占拠、電話管理、課長入室阻止)

同年四月一九日一時間の時限ストライキが終了した午前一〇時頃申請人等を始め指名ストライキに参加した一部組合員五十数名は三階事務室に侵入して終日これを不法占拠し、且つ被申請会社の電話を管理して得意先等からの電話註文その他の連絡を被申請会社の意思に反して断り、又課長等の入室を阻止して積極的に営業を妨害した。

(一三)  (店内デモ)

被申請会社が組合に対して事務室及び売場におけるデモ行為を固く禁止する旨再三警告していたに拘らず、組合はこれを無視して同年四月二八日午後〇時二五分頃より午後〇時五〇分頃迄の間申請人等組合員が部外者と共に約一二〇名の人員で三階事務室に侵入し三階事務室より営業中の一、二階売場にかけて労働歌を歌い、ワッショワッショの掛声をかけながらデモを行い甚だしく営業を妨害した。

(一四)  (課長吊し上げ)

同年四月二八日午後一時より午後二時迄の間申請人等十数名の組合員は二階ピンポン室で扉を押えて奈良総務課長を取り囲み「お前は人の首を切ることまでするのか。便所掃除をするのが一番適当だ。早く東京へ帰れ」等著しく同人を侮辱する暴言を吐いて吊し上げた。

(一五)  (店内デモ)

同年五月一日午後一時四〇分頃より午後二時過ぎ迄の間申請人林毅男等組合員多数はメーデーを終つた部外者を交えて約百二、三十名の人員で大挙明治屋ビルに侵入し三階事務室に上り被申請会社の制止を無視して執務中の三階事務室並びに営業中の一階及び二階売場内において鉢巻をし、プラカードを持つて掛声をかけ、笛を吹きながらデモを行い甚だしく営業を妨害した。

(一六)  (店内デモ)

同年五月二日午後〇時三〇分頃より午後一時頃迄の間申請人林毅男等組合員約五〇名は前記(一三)におけると略同様の方法で三階事務室並びに営業中の一階及び二階売場内においてデモを行い甚だしく営業を妨害した。

(一七)  (店内デモ)

同年五月四日午後〇時二五分より午後一時迄の間申請人等組合員約五〇名は前記(一三)におけると略同様の方法で三階事務室並びに営業中の一階及び二階売場内においてデモを行い、甚だしく営業を妨害した。

(一八)  (店内デモ)

同年五月一三日午後〇時三五分より午後一時一〇分迄の間申請人酒井進等組合員五〇名は前記(一三)における略同様の方法で三階事務室並びに営業中の一階及び二階売場内においてデモを行い甚だしく営業を妨害し、更にその際偶々船橋経理課長がデモの写真を撮影したところ三階事務室において午後の就業開始後迄同課長を取り囲んでフィルムの引渡を強要した。

右争議行為はその目的において、労働協約により明らかに団体交渉の対象とされていない事項につき団体交渉を求める極めて違法不当なものであると共に、その手段において争議行為として許される範囲を越えた違法不当のものであつて、申請人林毅男は組合名古屋支部執行委員長(闘争委員長)、申請人酒井進は同副委員長(副闘争委員長)として右争議行為を計画推進したのみならず、申請人林毅男は前記(一)乃至(七)、(九)、(一一)乃至(一七)の各行為、申請人酒井進は前記(一)乃至(七)、(一四)、(一七)、(一八)の各行為を率先実行し、もつて被申請会社に対し有形無形の損害又は不利益を与えると共にその信用を失墜させた。

よつて被申請会社は申請人等の右行為が人事に関する労働協約第九条、同協約附属懲戒規定第二条第二号「故意又は重大な過失若しくは監督不行届により事故を発生させ、会社に損害又は不利益を与えたとき」、第四号「不正、不信義な行為によつて会社又は従業員の体面を汚したとき」、第七号「従業員として遵守すべき諸規則に違反したとき」(就業規則第四条「従業員は所属長の指示に従い職場の秩序を守り誠実を旨として勤勉に励み常に業績の向上繁栄に努め各々其の職責遂行に専心しなければならない」)、第八号「その他右の各号に準ずる行為のあつたとき」に該当するものとして人事に関する労働協約第九条、同協約附属懲戒規定第四条により昭和三六年七月二八日懲戒委員会を開催し、その議を経て同月三一日申請人等を懲戒解雇したものであつて、その有効であることまことに明白である。(疎明省略)

理由

申請人林毅男が昭和二四年七月一日被申請人株式会社明治屋に入社し、又申請人酒井進が昭和二四年八月一日被申請人株式会社明治屋に入社しその後被申請人関西明治屋商事株式会社の従業員となつたこと、昭和三六年七月三一日被申請人株式会社明治屋が申請人林毅男に対し、被申請人関西明治屋商事株式会社が申請人酒井進に対してそれぞれ懲戒解雇の意思表示をなしたことは当事者間に争がない。

申請人等は右懲戒解雇の意思表示が申請人等の正当な争議行為を理由としてなされた不当労働行為であると主張するので判断するに、成立に争のない甲第二三号証、第二五号証乃至第二七号証、第二九号証乃至第三二号証、乙第一号証の一、第一〇号証、証人杉山利彦の証言によつて成立の認められる甲第一二四号証、証人船橋清造の証言(第一回)によつて成立の認められる乙第九号証、第一二号証の一、二、第三三号証の一乃至五、当裁判所その成立を認める甲第九号証乃至第一一号証の各記載、証人船橋清造(第一回)、同四方豊司、同杉山利彦の各証言によれば次の事実が疎明される。

被申請人株式会社明治屋は和洋食料品等の製造販売等を営み、被申請人関西明治屋商事株式会社は主として関西における酒類の卸売を営む会社であるが、被申請人関西明治屋商事株式会社は特定地区及び大都市における酒類の卸売及び小売の兼業が認められていない関係上、被申請人株式会社明治屋の所謂子会社として設立されたものであり、実質的な同会社の一営業部門を担当している商事会社であつて、両会社の役員及び幹部社員は兼務であり、その就業規則及び労働組合との労働協約も同一内容である。右両会社の従業員は被申請人株式会社明治屋の子会社である関西明治屋商事株式会社の従業員と共に全明治屋労働組合という単一の組合を組織している。右両会社の名古屋支店は名古屋市中区栄町三丁目五番地に所在する地下二階地上六階の所謂明治屋ビルにあつて、右ビルのうち地下一、二階及び地上一階乃至三階(うち一、二階が商品売場、三階が事務室)の各全部、四階及び六階の各一部を使用しており、支店長等幹部社員は両社を兼務しているものである。

被申請会社は昭和三六年二月頃従来同会社従業員によつて行つて来た明治屋ビルにおけるエレベーター運行及び清掃作業を専門業者である申請外栄和建物管理株式会社に請負わせる旨決議しその実施日を同年四月一日と決定した。

ところで被申請会社と全明治屋労働組合との間に締結された組合活動に関する労働協約第五条には「会社は左の各号に該当するときは組合に通知する。(2)号、会社の機構職制等を新設改廃したとき」と規定されている。被申請会社では右エレベーターの運行及び清掃の請負制度実施が会社の機構改廃に当るものとして右協約に従い同年三月一七日行われた団体交渉の席上組合名古屋支部に対し同年四月一日以降右請負制度を実施し且つこれに伴い従業員の職場変更を行う旨通知した。組合名古屋支部では同月二〇日拡大執行委員会を開き、右の如き請負化の推進によつて組合員の労働条件が変更したり、又職場の縮少に伴い労働組合の影響力が弱体化するとの見地からこれに反対するとの案を可決し、右案は同月二四日行われた組合名古屋支部大会及び同月二六日の組合第一〇回臨時中央大会において承認された。

組合名古屋支部は同月二五日被申請会社に対し請負制度実施に反対であるとして団体交渉を申し入れた。右申入に基き同月二八日被申請会社側から交渉委員として取締役名古屋支店長金沢隆平、総務課長奈良三郎及び経理課長船橋清造等が出席して第一回団体交渉が開かれたが、その席上被申請会社は明治屋ビルにおけるエレベーター運行及び清掃を請負化する必要性について説明すると共に、右請負化に伴い組合員であるエレベーター係の山田今子及び丹羽幸子を喫茶係に、清掃係の加藤かず子を発送係に、同じく周防えい子を食堂賄に職場変更する旨述べたところ、組合側から先ず請負制度実施を延期するよう申出があつたので、同年四月三日迄これを延期し、同年三月三〇日の第二回団体交渉では職場変更のうち山田今子を発送係へ、加藤かず子を喫茶係へ変更する旨述べると共に右請負制度実施及びこれに伴う従業員の職場変更について説明がなされたが、これに対する組合の協議を待つため請負化実施予定日を更に同年四月一〇日迄延期することとなつた。次いで同年四月七日開かれた団体交渉において被申請会社は請負化及びこれに伴う組合員の職場変更が団体交渉事項でないと主張するに至り、ただ組合の意向を聞くことはするが右について再考の余地はないとの基本的態度をとつて引き続き同月八日及び九日組合と話し合つた。この間組合側は請負化の実施及びこれに伴う組合員の職場変更に絶対反対であるが、なお検討するためこれが実施を一時延期して貰いたい旨述べたが、被申請会社は同月一〇日以降請負制度を実施すべくこれがため組合に対し会社の方針に協力するよう要請して組合の申出を容れず、同年四月一一日には組合側の意見が出尽したのでこれ以上話合いを続ける必要なしとして以後右問題に関する組合との協議を拒絶するに至り、組合名古屋支部が同月一二日及び二〇日文書をもつて団体交渉を申し入れたに拘らずこれに応じなかつたのである。そこで組合名古屋支部は被申請会社に対して団体交渉をなすよう求めて争議行為をなしたところ、被申請会社では右争議行為が正当な労働組合活動の範囲を逸脱したものとして組合名古屋支部執行委員長たる申請人林毅男、同副委員長たる申請人酒井進及び同書記長たる申請外岡内英雄の三名を懲戒解雇したものである。

被申請会社は右違法な争議行為として(一)乃至(一八)の事実を挙示し、これらが懲戒規定第二条所定の懲戒事由のうち第二号「故意又は重大な過失若しくは監督不行届により事故を発生させ会社に損害又は不利益を与えたとき」、第四号「不正不信義な行為によつて会社又は従業員の体面を汚したとき」、第七号「従業員として遵守すべき諸規則に違反したとき」、第八号「その他右の各号に準ずる行為のあつたとき」に該当するものとして懲戒解雇したと主張する。ところで成立に争のない乙第二号証の一、第三号証によれば被申請会社と組合との間に締結された人事に関する労働協約第九条には組合員の懲戒は別に定める懲戒規定によるべき旨が定められてあり、その懲戒規定第二条には被申請人主張の各号等の一に該当する行為があつたときはその従業員を懲戒するものとし、第三条には懲戒の種類は譴責、出勤停止、降給、諭旨退職、懲戒解雇の五種類とする旨が定められていて、右懲戒は懲戒規定第二条に該当する行為の違反程度に応じてなされるべきものであるが、懲戒解雇は懲戒として最も重いものであるから、これがためには懲戒規定第二条に該当し且つその情状が最も重いものであることを要する。従つて本件懲戒解雇が相当であるといえるためには被申請会社が具体的解雇事由として挙示した申請人等の所為が懲戒解雇事由としての懲戒規定第二条各号に該当するものでなければならない。そこで右について以下逐次考察する。

成立に争のない甲第二四号証、乙第三一号証の一乃至一二、証人吉田能啓の証言(第一回)によつて成立の認められる甲第五八号証乃至第六〇号証、証人福井巴の証言によつて成立の認められる甲第六五号証、第六七号証、証人広瀬惟数の証言によつて成立の認められる甲第七〇号証、第七三号証、第七七号証乃至第八〇号証、証人水野正敏の証言によつて成立の認められる甲第八九号証、第九三号証、第九五号証、証人伊藤要の証言によつて成立の認められる甲第九六号証乃至第一一一号証、証人吉田能啓の証言(第二回)によつて成立の認められる甲第一四〇号証乃至第一四二号証、証人船橋清造の証言(第一回)によつて成立の認められる乙第一四号証の一乃至四、第一五号証の一乃至四、第一六号証、第一七号証、第一八号証の一乃至五、第一九号証の一、三、第二〇号証の一、二、第二一号証の一乃至五、第二二号証の一乃至四、第二三号証、第二四号証の一乃至四、第二五号証の一乃至四、第二六号証、第二七号証の二乃至四、第二八号証の一乃至三、第二九号証の一乃至三、第三〇号証の一乃至五、第三二号証の一乃至三、五乃至七、九、一一乃至一三の各記載、証人船橋清造(第一、二回)、同杉山利彦(一部)、同吉田能啓(第一回の一部)、同福井巴(一部)、同水野正敏、同伊藤要の各証言を綜合すれば次の如き事実が疏明される。これに反する証人杉山利彦、吉田能啓(第一回)、福井巴の各供述は措信しない。

(一)  被申請会社では前記請負制度を実施するに先き立ち、昭和三六年四月九日(日曜日)申請外栄和建物管理株式会社をして明治屋ビル内の春季定例大掃除をなすこととし、同日午後一時過ぎ頃被申請会社経理課長船橋清造、総務課長奈良三郎等を先頭に栄和建物管理株式会社の清掃員一〇名が三階事務室の清掃にとりかかろうとした。組合名古屋支部では既に右定例大掃除の行われることを察知し、組合員をして右清掃員を説得してこれを取り止めさせることに決定していたので、待機していた組合中央執行委員長平一雄、同中央副執行委員長四方豊司及び申請人両名を含む組合員約二〇名は清掃員に対して会社との話合いがついていないから清掃を止めるよう説得したが、清掃員がこれに構わず清掃を始めるや、机の上にあげた椅子を降ろしたり、掃き集めた塵を蹴散らしたり、電気掃除機のコンセントを外したりして清掃作業を妨害したため総務課の一隅を除き他の大部分の清掃をなすことを不可能ならしめた。

(二)  四月一〇日被申請会社会議室において取締役名古屋支店長金沢隆平、経理課長船橋清造及び総務課長奈良三郎が前日行われた定例大掃除の件について協議中、午前一〇時二〇分頃組合中央副執行委員長四方豊司、申請人両名等組合員の外、総評全国一般労働組合書記長室田豊等が突然扉を開けて入室して来たので、船橋経理課長は部屋から退去するよう要求したが、組合員等は同日朝被申請会社名古屋支店長が従業員に対し「信念を以て業務を遂行しよう」と題して請負制度につき説明したビラを配布し、又「勤務時間中課長の許可を受けず無断で自己の職場を離れた者は組合活動を行つた者と認めて賃金カットをします」との支店長通達第一一四号を出したことに対して抗議すると共に団体交渉を求める旨述べたので、被申請会社側では会議中であるため右抗議に対する回答は追つてなす旨述べたところ、組合員等は午前一一時過ぎ頃会議室から退去した。

(三)  四月一〇日午後二時四五分頃組合中央副執行委員長四方豊司、申請人林毅男等組合員及び総評全国一般労働組合書記長室田豊等は同日午前中被申請会社に対してなした抗議の回答を求めて会議室へ赴き、名古屋支店長不在のため総務課長奈良三郎に会つて約二時間にわたり組合の抗議内容について押問答したが、その際組合員の中には「総務課長は脳味噌が半分位しかないんだろう」「脳味噌が小指の先程しかないんじやないか」、「よくそんな頭で委員長がつとまつたものだ」、「だら幹だ」等の発言をなしたものがあつた。

(四)  四月一二日午前一一時頃明治屋ビル一階発送部荷物エレベーター前通路において申請人両名等組合員及び総評全国一般労働組合書記長室田豊等は同所を通りかかつた総務課長奈良三郎に対し二時間にわたり請負化問題について団体交渉を開くよう要求すると共に、名古屋支店長金沢隆平、総務課長奈良三郎等がエレベーター係の丹羽幸子及び山田今子に対して職場変更に応じるよう説得したことにつき抗議したが、その間組合員の中に「お前は何時も同じことをいう。テープレコーダーと同じじやないか。お前はテープか」、「お前のようなだら幹が課長になるから争議が起きるのだ」、「裏切者」、「卑怯者」等の発言をなす者があつた。

(五)  四月一四日被申請会社は栄和建物管理株式会社をして就労させるべく予め組合に対し栄和建物の従業員が就労するから妨害しないようにとの通知をなし、午前九時一五分頃経理課長船橋清造に誘導された清掃員一〇名(うち半数は女子)が地下二階の清掃道具置場から清掃用具を持ち出して階段を昇ろうとしたところ、申請人酒井進等組合員約二〇名が階段で人垣を作つて清掃員に対し組合に協力して仕事をしないよう説得しようとしたが、清掃員がこれに構わず階段を昇ろうとしたので組合員は清掃員の前面に立ち塞り、両手で清掃員を押えつけたり、清掃用具を奪つたりして清掃用具の持出を妨害し、更にロビー階段の清掃作業をしている清掃員に対し組合員がその周囲につきまとつて清掃を止めることを求め、申請人酒井進はこれを制止しようとした奈良総務課長を二、三回突き飛ばしたりしたため、被申請会社は午前一一時頃遂に清掃作業を中止し、又申請人林毅男等組合員がエレベーター内でエレベーター運行者に対して繰り返し運行を中止するよう要求したり、或は組合員の一部がエレベーターと入口通路の両側に片足をかけてその運行を阻止する等の行為をしたためエレベーターの運行を中止するの止むなきに至つた。

(六)  四月一四日午前九時三〇分頃申請人両名等組合員約二、三十名は一階荷物エレベーター前において経理課長船橋清造を取り囲み、同課長に対し繰り返して団体交渉を要求すると共に請負人の就労に抗議し、同課長が組合員に通路を開けるよう求めてもこれに応ぜず、総務課長奈良三郎が船橋課長の傍へ行こうとしても組合員に阻止されるような状態にあつたので船橋課長は倉庫課長池田義雄に警察へ連絡するよう告げたが、池田課長が右要請に応じる迄のこともなく午前一一時四五分頃に至つて船橋課長が団体交渉について支店長に相談する旨述べたことにより組合員は漸く解散した。

(七)  四月一六日午後一一時頃四方中央副委員長等組合員十二、三名が三階事務室において業務妨害排除仮処分申請の書類を作成していた総務課長奈良三郎に対して団体交渉を開くよう要求し約二〇分後に右事務室より立ち去つたが、そのうち六名の者は翌一七日実行予定のストライキに対抗して会社側が組合員を事務室へ入室させない措置をとることを防止するために三階書庫前の通路にござ、毛布を敷いて坐り込み、通りかかつた奈良課長が退去を要求したに拘らず翌朝迄泊り込んだ。

(八)  四月一七日組合名古屋支部は午前九時より正午迄三時間の全面ストライキを行つた。その際仕入課長柴田米吉、営業課長横江一雄及び第一卸課長加藤由雄が三階事務室帳場において得意先からの電話注文に応接していたところ、午前九時五分頃組合名古屋支部執行部の指示に基き、同支部書記長岡内英雄、執行委員市野孝憲等組合員十数名が右事務室に侵入してこれらを占拠して同室に備付けの電話を掌握し客から電話がかかつてくるや、右課長等が制止し或は抗議したに拘らず「今日はスト中です。註文はきけません」と述べて擅に註文を断つた。そこで右課長等は帳場に通じていた電話のうち一本を仕入課の方へつなぎ得意先からの電話を四、五回聞いているうちに右電話も市野執行委員等によつて占拠され、以後正午に至る迄同課長等は得意先からの電話註文を聞くことができなかつた。

(九)  組合は被申請会社に対して団体交渉を要求すべく所在不明となつた名古屋支店長金沢隆平の行方を探していたが、四月一七日就業時間外である午後八時頃申請人両名等組合員十数名は明治屋ビル三階事務室において第一卸課長加藤由雄及び倉庫課長池田義雄に対し支店長を探してくるように要求してこれを承諾させ、更に午後九時頃発送部事務室に居た同夜宿直の仕入課長柴田米吉、名古屋駅前出張所長古川不二男及び営業課長横江一雄に対しても同じく支店長を探してくるよう要求し、柴田課長及び古川出張所長がこれを拒絶するや、抵抗する両名の体を押したり、かかえたりして多数の威力をもつて両名を明治屋ビル外に押し出した。

(一〇)  四月一八日組合は被申請会社に対し団体交渉を要求して四七名の指名ストライキを実施したが、その指名を受けた組合員等十数名は三階事務室前に人垣を作り椅子を並べて午前九時の始業時より午後五時半の終業時までの間第一卸課長加藤由雄、倉庫課長池田義雄、経理課長船橋清造等が執務のため事務室へ入るのを阻止し、同日の執務を不可能ならしめた。

(一一)  四月一八日午前九時の始業時より午後五時半の終業時までの間組合員をもつて組織した青年行動隊数名は組合名古屋支部執行部の指示に基き事務室卸帳場の電話を取り囲んで担当係員から電話を取り上げてこれを掌握し、客からの註文に対して「争議中ですから註文は受けられません。あとから電話して下さい」と告げて擅に註文を断つた。

(一二)  四月一九日組合は午前九時より一時間の時限ストライキを行つた後、引き続き午前一〇時頃組合員約五〇名が組合名古屋支部執行部の指示に基き終業時間に至る迄交替で三階事務室入口に坐り込み且つ(二)項と同様の状態で事務室の電話を占拠し電話による客の註文を断つた。

(一三)  被申請会社が事務室入口三カ所に事務室及び店頭におけるデモを禁じる旨の張紙をしておいたに拘らず、四月二八日午後〇時二五分頃組合名古屋支部副委員長たる申請人酒井進の指揮の下に申請人林毅男等組合員及び応援者約一二〇名は掛声をかけながら三階事務室に入り、同室内において労働歌を歌い「団体交渉を開け」「請負制度を撤廃しろ」等叫びワッショワッショと掛声をかけて事務室内を二、三回廻つた後午後〇時四〇分頃二列縦隊となつて大声でワッショワッショの掛声をかけながら営業中の二階商品売場を一周し更に営業中の一階商品売場を一順して発送部からビル外へ出た。

(一四)  四月二八日午後一時頃総務課長奈良三郎は明治屋ビル二階ピンポン室において組合名古屋支部書記長岡内英雄と業務上の要件につき話し合つた後立ち去ろうとした際、その場に居合わせた申請人林毅男等組合員は同課長を取り囲んで口々に団体交渉を開くことを要求し、「お前は人の首を切ることが仕事か。便所掃除をするのが一番適当だ」等の発言をした。

(一五)  五月一日午後一時四〇分頃申請人林毅男等の組合員の外メーデーに参加した総評全国一般労働組合員を含む百二、三十名が鉢巻をし、プラカード、のぼり等を持つて三階事務室に押しかけ経理課長船橋清造及び総務課長奈良三郎の退去要求にも拘らず事務室前通路を埋め、そのうち約五〇名は事務室に入つたが、二〇分後には徐々に三階から営業中の二階売場へ降りて行き、二階売場をゆつくり一順した後営業中の一階売場へ降り、一階売場では総評全国一般労働組合書記長室田豊が笛を吹きながら総員をビル出入口に集め午後二時過ぎ表道路へ出た。

(一六)  五月二日午後〇時半頃申請人両名等組合員約五〇名が二列縦隊で三階事務室に入りワッショワッショの掛声をかけて室内を二周し労働歌を歌い団体交渉を要求した後午後〇時四五分頃にはワッショワッショの掛声をかけながら営業中の二階及び一階売場をいずれも一周して午後〇時五〇分頃表道路に出た。

(一七)  五月四日午後〇時二五分頃申請人両名等組合員約五〇名がワッショワッショの掛声をかけて三階事務室に入り総務課長奈良三郎の制止にも拘らず労働歌を歌い室内を廻つた後、午後〇時四〇分頃二列縦隊で営業中の二階及び一階売場内をそれぞれ一周した後表の歩道に出た。

(一八)  五月一三日午後〇時三五分頃申請人酒井進等組合員約五〇名がワッショワッショの掛声をかけながら三階の事務室に入つて室内を一周し、労働歌を歌つた後ワッショワッショと掛声をかけながら二列縦隊で営業中の二階及び一階売場を一順して午後〇時五〇分頃表道路に出た。

ところで労働組合のなす争議行為は必然的に使用者の業務の正常な運行を阻害するものではあるが、実力をもつて使用者がなさんとする業務遂行を積極的に妨害したり、使用者の占有を排除したり、或は使用者側の管理職にある者の行動を束縛して意思決定の自由を奪うが如きは一般的に違法な争議行為として許されないものというべきである。しかしながら争議行為の違法性を判断するに当つては労働組合に争議権が認められている趣旨に鑑み、行為自体と共に当該争議における具体的情況をも考慮しなければならない。本件において被申請会社と組合との間に締結された組合活動に関する労働協約第五条には「会社は左の各号の一に該当するときは組合に通知する。(2)号、会社の機構職制等を新設改廃したとき」と規定されているが、被申請会社が従来その従業員によつて行つて来た明治屋ビルにおけるエレベーター運行及び清掃を経営合理化のための専門業者の申請外栄和建物管理株式会社に請負わせることは会社機構の改廃に当るものというべく、しかも右下請化そのものについてみれば、労働者の待遇と直接関連を持たない限り企業経営の必要上使用者が一方的になし得るものであるから、被申請会社は右協約第五条によりこれを組合に通知すれば足りるものというべく、団体交渉の対象となす必要はないものということができる。右協約条項の規定するところも右趣旨によつて組合に対する通知事項としたに止まるものである。しかしながら右請負化の実施によつて組合員の職場変更が行われ、これによつてその労働条件が変更される場合には右組合員の職場変更が団体交渉の対象となり得るのみならず、職場変更を必要とさせるに至つた請負制度の実施そのものについても、その実施態様等右職場変更に関する交渉に必要な限度において使用者の団体交渉義務を認めるべきである。労働協約上もこれを妨げるに足りる規定はない。もつとも成立に争のない乙第二号証の一によれば被申請会社と組合との間に締結された人事に関する労働協約第一条第一項には「会社は組合の人事については責任を以て慎重公正に行う」と規定されているが、これは人事権が会社にあるとの人事管理の原則を明示したに過ぎず、又第四条には「会社は業務上の必要ある場合組合員の転勤、出向または職場の変更を行う。但し組合役員の転勤出向を行う場合及び昇格によつて非組合員となる場合は中央役員については組合本部へ、支部役員については組合支部へ可及的速かに夫々事前に内示する」と規定されているが、それは組合役員の移動によつて労働組合活動に支障を来たさないよう特に事前通知を必要とすることにしたものと解すべく、右規定によるも一般組合員の職場変更が団体交渉の対象たり得ないとの結論をとることはできない。次に同協約第一条第二項には「組合は会社の行つた組合員の人事が公正を欠くと認めたときは苦情処理委員会に申出ることができる」との規定があるが、同条項覚書によれば「苦情処理委員会の性格は人事条項に関しては会社の諮問機関とし、その都度会社、組合双方の同数の委員を以て構成して運営する。尚苦情処理委員会に関する規定は会社組合協議の上決定する」ことになつているに拘らず、苦情処理委員会に関する規定は未決定のままであり、又これが設置に関して協議がなされたとの疏明がないのみならず、人事に関する苦情処理委員会は会社の諮問機関であつて、これをもつて人事に関する団体交渉を排除する性質のものとは考えられない。然るに、被申請会社は請負化の実施及びこれに伴う職場変更をもつて全て団体交渉の対象たり得ないものとし、昭和三六年三月二八日、同月三〇日話合いと称して協議をなしたが、同年四月七日には単に組合の意向を聞くのみとの基本的態度を表明するに至り、同月一一日団体交渉を一方的に打ち切つたのであつて、右の如き団体交渉の拒否は正当の事由なくしてなされたものとして不当労働行為というべきである。ただし組合が請負化絶対反対の態度を固持して団体交渉に臨んだことは労働条件についての協議以上のものを要求したのであつて不当というべきであるが、未だ協議が充分に重ねられていない段階において団体交渉を拒否したことを考えれば、右の如き組合の態度は被申請会社が団体交渉を拒否した責任の軽重を論じるにつき問題たり得るのみであつて、然るが故に団体交渉の全てを拒否する正当な理由とすることはできない。前記各行為の違法性を判断するに当つては右の如き情況が考慮されるべきである。

(一)及び(五)は栄和建物管理株式会社従業員の就労を妨害したものである。右就労に際してなした組合員の行動は第三者の就労を防ぐためのピケッティングというべきものであるが、ピケッティングは原則として争議行為を実効あらしめるための平和的説得の範囲に止められるべきものであつて、前記認定の如く実力をもつて清掃作業を妨害し或はエレベーターの運行を阻止するが如きは許されず、争議行為としてのピケッティングの正当性の範囲を越えたものといわなければならない。もつとも被申請会社側が不当に団体交渉を拒否した事実が存するが、これをもつて実力による就労阻止を正当化し得るものではなく、ただその責任を軽減する事由たり得るに過ぎない。右違法な争議行為は職場秩序を紊したものとして懲戒規定第二条第七号、就業規則第四条(成立に争いのない乙第五、六号証によれば、就業規則第四条は従業員が職場秩序を守るべき旨を規定している)に該当する。

(二)は組合員が被申請会社において不当に請負化は団体交渉事項でないとの態度をとり、これを表明したビラを配布したため、支店長等に対しこれに抗議し団体交渉を開くことを要求する目的で会議室に行つたものであつて、未だ故意に会議を妨げる目的をもつて会議室に乱入したものというには足りず、違法な争議行為とは認められない。

(三)、(四)、(六)及び(一四)は多数の組合員が総務課長奈良三郎及び経理課長船橋清造((六)のみについて)の行動を拘束し暴言を浴びせたものである。しかしながらこれ等の行為は被申請会社のビラ配布等に抗議し、或は被申請会社が不当に組合との団体交渉を拒否したのに対してこれが開催を要求したものであるのみならず、その時間も強ち苦痛を感じさせる程の長時間でないことに徴すれば、未だ右課長等の行動の自由を不当に束縛したものとは言い難く、又暴言の中には多少穏当を欠く言辞が存するが、押問答の最中に興奮の結果発せられたものであつて、右言辞をもつて脅迫或は名誉毀損に当るとして行為全体を違法視するには足りない。被申請会社は(六)の行為の際申請人酒井進が奈良総務課長を階段の五、六段目より突き飛ばした旨主張するが、乙第一八号証の三の記載中、申請人酒井進が「奈良さん、あんたの来るところではない」と言つて奈良課長を二、三回突き飛ばしたとある部分は奈良課長が船橋課長の傍へ行くのを阻止したとみるのが相当な情況にあり、他に故意に右の如き行為に及んだとの疏明はない。

(七)は明治屋ビル内に無断泊り込みをなし、もつて被申請会社が明治屋ビルに対して有する管理権を侵害したものである。しかしながら右泊り込みは被申請会社が組合との団体交渉を拒否して四月一二日頃より支店長は出社せずその所在も判明しなくなり、又幹部社員も常時出社しない状態であつた折柄、たまたま総務課長の在社を発見し同人に対し団体交渉の再開を申入れ、一部の者がそのまま泊り込んだものであり、その泊り込みによつて特に被申請会社の営業活動が妨害される等の支障を生じたとの疏明もないから、右は違法な争議行為として問責するには足りない。

(八)、(一一)及び(一二)は電話担当者以外の組合員が事務室を占拠し、同室備付け電話を掌握し、客からの註文を擅に断つたものである。かかる行為は被申請会社の営業活動を実力をもつて積極的に妨害したものであつて、既にこの点において正当な争議行為として認められる限度を越えているのみならず、証人船橋清造の証言(第一、二回)及び右証人の証言(第二回)によつて成立の認められる乙第五三号証の記載によれば、被申請会社における販売額はいずれもその大半が電話註文によるものであつて(この点は申請人等の自認するところであり、これに反する甲第一三八号証及び第一三九号証の各記載は措信しない)、右電話註文による一日平均の額は昭和三六年四月当時被申請会社明治屋において卸小売を合わせ金一三〇万円を下らず、又被申請人関西明治屋商事株式会社において金一四〇万円を下らないものとみられるが、三日間にわたる右行為によつて当日の売上額が半減したことが疏明されるから、組合員等の右行為は懲戒規定第二条第二号、第七号、就業規則第四条に該当し、しかもその情状が極めて重いものといわなければならない。申請人等は右について争議中の受註による混乱等を避けるため執つた客に対する説得行為であつて、しかも応答に充分留意したと主張する。しかしながら、本来労働組合の争議行為は組合員が就労を拒否し、これによつてその目的達成を実効あらしめるところにその本質があるのであつて、使用者が労働組合の争議行為にも拘わらず能う限り正常な業務の運営をなさんと努力するのを阻止し得るものではないから、実力でもつてこれを排して被申請会社の意思に反し争議中なることを理由に電話註文を拒絶する行為は正当な争議行為としての単なる説得に止まらず、積極的な営業妨害であつて違法たるを免れない。のみならず右受註をすれば商品発送に混乱が生じ客に対する被申請会社の信用を失墜するに至るような状態にあつたとの疏明もないから、申請人等の主張は採用できない。

(九)のうち宿直中の二課長を実力による多数の威力をもつてビル外に押し出した行為は明らかに違法な行為というべく、職場秩序を紊したものとして懲戒規定第二条第七号就業規則第四条に該当する。

(一〇)は団体交渉の開催を要求してピケッティングを行い、被申請会社課長等が執務のため三階事務室へ入るのを終日実力をもつて阻止したのであつて、使用者側の業務執行を積極的に妨害し争議行為として許されるピケッティングの範囲を越えたものというべく、職場秩序違反として懲戒規定第二条第七号就業規則第四条に該当する。

(一三)、(一六)乃至(一八)は組合員が被申請会社の営業中の商品売場においてデモを行つたものである。客の来集する店舗内においてその営業中デモを行うことは実力をもつて使用者の営業を妨害するものに外ならないからこのような争議行為は原則として違法というべきである。しかしながら本件においては右デモは被申請会社が団体交渉を拒否する不当な態度に抗議するために行われたものであつて、又その方法も二列縦隊になり売場内を一順した程度のものであり、その時間も約数分の短時間内に、しかも比較的閑散時に行われたもので客に対する影響も殆んどなかつたものであることが認められるから右示威行為は違法として問責するには足りない。

(一五)は組合員及び外部応援団体がメーデー参加後被申請会社に対して団体交渉の開催を要求すべく押しかけたものであつて、多数の者がプラカードを持ち鉢巻をして被申請会社店内に立ち入つたことは穏当を欠くものではあるが、右行為は被申請会社が不当に団体交渉を拒否していることに抗議してなされたものであり、一、二階商品売場は単に通り過ぎたに過ぎず、その時間も前後二〇分程度であることからみて未だ違法な争議行為とはいえない。

以上によれば(一)、(五)、(八)乃至(一二)はいずれも違法な争議行為であつて、特に(八)、(一〇)及び(一二)はその程度が重いものといわなければならない。申請人両名は右(一)、(五)及び(九)を自ら実行したことについて責任があると共に、右全ての行為につき申請人林毅男は組合名古屋支部執行委員長、申請人酒井進は同副委員長として積極的にこれを指導した責任を負うべきものであつて、右事実を綜合すれば懲戒規定第三条所定の懲戒処分のうちその情状が最も重い懲戒解雇に値いするものというべきであるから本件懲戒解雇は相当である。もつとも右争議行為は被申請会社の不当な団体交渉拒否に由来した一連の行為の一部ではあるが、右各行為のうち(八)、(一〇)及び(一二)の電話占拠はその違法性の程度が大であるのみならず、被申請会社が団体交渉を拒否したのは組合側が被申請会社との協議において労働条件に関する交渉の限度を越えて請負化そのものに絶対反対の態度を固持したことにも一因があるから、被申請会社が申請人等をそれぞれ懲戒解雇したのをもつて労働者側のみに酷な処分であるとはいえない。

従つて本件懲戒解雇が申請人等の正当な争議行為を理由としてなされたものとはいえないから、不当労働行為の主張は理由がない。

次に本件解雇の意思表示が解雇権の濫用であると主張するが、右解雇をなすべき正当の理由のあることは前記のとおりであつて、証人船橋清造(第一回)及び石附八郎の各証言によれば被申請会社は右争議行為に対する申請人等の責任を追求すべく人事に関する労働協約第九条同協約附属懲戒規定第四条により昭和三六年七月下旬懲戒委員会を開催しその議を経て同月三一日懲戒解雇したものであるから、右主張も理由がない。

よつて申請人等の申請はいずれも失当として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 伊藤淳吉 丸山武夫 渡辺一弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例